まっさらな情事。
 って、言えばいいんだろうか、これは。


 猫みたいだ。たぶんこの子は猫なんかしらないけど。
 天蓋のベッドは一人用では絶対にないし、だから有り難く使わせていただいている朝だ。
 それからこの子の、布団のなかでしなやかに胎児のようにからだをまるめたのは、猫みたいだ、ということ。
 朝日なんか出るわけもないくせに、それとよくにた陰影がつくられて白い髪に光がこぼれかかっていた。窓から射し入る光の正体はなんだろう。手を翳せばきらきらと塵のような粒子が舞っていて、掴めない。
しずかに寝息をたててやすらいに満ちている。目蓋を開いたなら、だけどきっと誰もこんな安息をあたえてはやれないだろう。誰も、俺だって、こんな顔をさせてはやれないだろう。

 眠っているほうがきっとよかった。

 もしかしたらあの遠い目覚めの日まで、この子は化石のようにほんとうはねむっていたんじゃないだろうか。ずっと、何億年も、この場所で。だってそうだろう。起きてしまえばぽろぽろと欠けてゆくだけなのに。どうして生きているんだろう。どうして生きてなんか、まだいるんだろう。どうして、生きてきてしまっただろう。こんなになってしまうまで。
 ねむっているあいだこんなにも世界じゅうに歓迎されたこどものような顔して、このからだの、この目蓋の、いったいどこに欠陥をかくしているかわからない。
ときどきこの子が足りないのでなくてだれよりずっと満たされているんじゃないかとおもう。
 完成された未完成。
 腕のない像、首のない天使みたいに。
 指先が暴虐のかぎりをつくすとき、その狂気はだけどはんぶん正気でできている。
 咎めてほしがって、俺がその役割を担うことのできないでいることを、それでもこの子は赦している。ちゃんとわかっている。
 腕のない像は腕のないまま、首のない天使は首のないままそれがうつくしいというひとのこころを守ろうとするように、こわれたままでいようとしてほんとうにこわれてゆくこの子の、顫える、うすい目蓋の皮膚が、光に透けている。