かれの指先が僕の肌のうえで音楽を鳴らした。甘やかな痺れをともなう指先の軌跡は、ひとつ、またひとつ鍵盤をはじいたように僕の感覚をいろいろの方向へ跳ねさせ、やがて大きな流れをつくった。その奔流はあちこちで跳ねまわる感覚がゆるやかにたばねられた旋律だった。はだをあわだたせるみたいな薄膜の恍惚があらゆる感情を揺さぶることにおいてまぎれもない音楽だった。からだを奏でられ、僕という意識まるごとその波にからめとられ、浚われてゆく感じがした。芽生えたものは自制できないことへの恐怖だったが、だけれどその一本のおおきなながれに、僕をなぞる彼自身の感覚もまた織り込まれているのだと思うと、それが強烈な熱にかわった。ああ、音楽にされるんだ。僕と、君とが、おなじものに。力づくで境界を剥ぎ取られ、おたがいを透過し、それはどろどろに煮立った白桃のジャム、怠くあまく毒みたいに苦くて、ああ、なにをいおうとしてたんだっけ。からだの感覚はひとつのうねりにまとめられていくのにそれでいて僕はいまほどかれてゆく気がする。受け入れるでも抵抗するでもなく僕はそれを全身でただ味わい尽くしている。鍵盤は指先を感覚するかな、こうやって、ねえ?